周術期管理特集 〜創傷治癒①〜

外科総論
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周術期管理をしてこそ外科医!

こんにちは、Dr. 空手です。
今回から周術期管理特集をやってみます。

『外科医=手術』誰もが考える方程式だと思います。
しかし、実際には『外科医=周術期管理(手術含む)』の方が共感が得られるのではないでしょうか。
手術には合併症がつきものであり、当然ですが『手術のbenefit > 合併症のrisk』となった時に初めて手術を行うことができるのです。
もちろん良い手術をするに越したことはありませんが、合併症も含めた周術期の管理が外科医にとって一番頭を悩ませるところなのです。

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創傷治癒

今回は周術期管理の一つとして「創傷治癒」をテーマにしてみましょう。
外科病棟を歩いてみると、必ず一人二人は創部感染を起こして開放創になっている患者がいると思います。
そういった患者さんに対して自分は適切な対処を行えているのか、また普通の傷と何が違うのか。理解を深めましょう。

まず、創傷というのは主に2種類。
Acute wound:言うならば通常の傷。普通の治り方で治っていく傷。
Chronic wound:通常の治り方ができず、治癒に時間がかかっている傷。創部感染、糖尿病足、下肢潰瘍、褥瘡が代表的。

Acute wound

Acute woudに関しては放っておいても勝手に治っていくのであんまり気にしたことがない方が多いと思いますが、以下のいくつかの治癒過程を経て治っていくのです。

1. 早期創傷治癒
    ①出血・凝固期
受傷後5-6時間。主役は血小板。血管収縮、凝固カスケードが起こり、フィブリンが血小板を刺激してサイトカインが遊走される。
    ②炎症期1-4日目。主役は白血球。好中球により細菌は捕食され(24-48時間)、単球が組織に出てマクロファージとなり細菌や損傷組織を貪食する(~4日目)。

2. 中期創傷治癒 
  ①増殖期2-4日目。主役は線維芽細胞。サイトカインによって線維芽細胞が創部に動員されコラーゲンなどの細胞外マトリックスを産生する。
    ②血管新生期:主役は血管内皮細胞。線維芽細胞動員と並行して、血管内皮細胞が新生毛細血管を形成する。これによりフィブリンの吸収や滲出細胞の減少を助長し、創部は線維芽細胞やコラーゲン線維で埋められ、線維化が進んでいく。
    ③上皮化期:主役は上皮細胞。上皮細胞が創縁の上皮から動員され、外界と創部の間にバリアを形成する。綺麗な開放創であれば1mm/日のペースで、一次閉鎖創であれば24〜48時間で上皮層を形成する。

3. 後期創傷治癒
    ①コラーゲン増生期2〜4週間。加速度的に合成され、傷の抗張力を上げる。
    ②創面収縮期4-5日目から始まり12-15日目まで(開放創の場合はより長く)続く。創縁から創中心に向かって筋線維芽細胞の収縮に伴って、創部が収縮していく。
    ③瘢痕形成期約21日目〜。コラーゲン産生が減少し、創部の細胞数が減少していく。張力に沿って新しい強固なコラーゲンが再増生される。6ヶ月間かけて元々の80%の抗張力に戻るが、健常な組織の抗張力に戻ることはなく、12~18ヶ月かけてプラトーに達する。

ちょっと難しい単語が多いかもしれませんが、注目すべきは、「一次閉鎖創であれば24〜48時間で上皮層を形成する」「6ヶ月間かけて元々の80%の抗張力に戻るが、健常な組織の抗張力に戻ることはなく、12~18ヶ月かけてプラトーに達する。」という二箇所です。
これをわかりやすく言い直すと、
『汚染のない手術で普通に縫って閉じた創部は、48時間経てば基本的には外部から汚染されることはない』
ということと、
『一度開いた傷は、半年間で健常な皮膚の強さの80%くらいまで戻るけども、元々の強さに戻ることはない』
ということです。
病棟でも手術後は創部を被覆剤で覆っていることが多いと思いますが、創部が直接視認できないガーゼ付きの被覆剤の場合は術後3日目くらいで剥がしている指導医が多いのではないでしょうか。
これは上記の一つ目の理論に沿っていることであり、かつ術後3-4日目以降は逆に創部感染が起こる時期でもあるので直接視認して創部を確認できるようにしているのです。

Chronic wound

続いて、Chronic woundです。
Acute woundの治癒過程から逸脱し、治癒に多くの時間がかかっている傷のことです。

多くのChronic woundが炎症期もしくは増殖期の遅延や阻止が生じており、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)という蛋白分解酵素が増殖しています。
MMPは創面の種々のサイトカインや増殖因子を分解してしまって、通常の治癒過程を阻害しChronic woundに至ります。
主なChronic woundの原因としては以下のものが挙げられています。

局所的要因:異物、壊死組織、反復性外傷、虚血、静脈不全、感染、増殖因子欠乏、過度な蛋白分解、放射線照射
全身的要因:糖尿病、ステロイド使用、抗癌剤使用、喫煙、膠原病、慢性腎障害、慢性肝障害

どれもぱっと見で創傷治癒に悪そうな印象ですね。なので、こういった背景がある患者さんに対しては創傷処置というのが非常に重要になってくるのです。

今回はここまでで。次回は創閉鎖の方法と創傷被覆剤など紹介します!
それでは。押忍。

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