嫌気性菌、好き?嫌い?

勉強
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Ola!どうでしょうか、最近はDr.空手とほほえみも少し仕事が落ち着いたのか、記事を書いてくれていますね!

マクロの堅苦しい記事ばかりで苦しんでいた読者の方々には好評ですw。

さて、最近ピぺラシリン/タゾバクタム(以下、PIPC/TAZ)も製品供給不足となっていますね。昨年から続く一連の抗菌薬不足はもはやバイオテロです。ただし、セファゾリンなど代替の効きにくい抗菌薬と比較してPIPC/TAZの場合は、供給不足で困る病院と困らない病院があります。それはPIPC/TAZの使いドコロをしっかりと理解して使用しているかどうかで決まります。当院は困らない病院ですが、日本でも多くの病院が悲鳴を上げている状況でしょう。

実は、どうしてもPIPC/TAZでないとダメ!という状況は少ないです。というよりも、ほとんどないかもしれません。ペニシリン系の記事を復習してほしいのですが、PIPC/TAZはとてつもなく広域な抗菌薬です。耐性菌出ない限りは、緑膿菌だろうと嫌気性菌だろうと活性があります。ちなみにMSSAも大丈夫です。

でもそれらすべてをカバーしたい場面ってあるでしょうか?敗血症性ショックは、確かにありです。ショックとなっている場合の経験的治療は躊躇うほうが罪です。遠慮なくいきましょう。ただ、PIPC/TAZとVCMという腎機能障害が最も起こりやすいレジメンを避けて、カルバペネム+VCMというレジメンにしている病院も多くあります。あとはFNでしょうか。でもCFPMやCAZなどの選択肢もありますね。

わかりましたか?PIPC/TAZじゃいないとどうしようもないという状況はほぼないのです。

さて、というわけで緑膿菌カバーと嫌気性菌カバーをほかの抗菌薬で代替できれば、PIPC/TAZ不足に悩む必要はありません。そこで今回は嫌気性菌という側面からまとめてみます。今までの記事の復習にもなりますので、ご期待ください!

嫌気性菌とは?

医療者が、嫌気性菌という場合は以下の細菌のことを指します。

「臨床上、感染症をよく引き起こす偏性嫌気性菌(O2が存在すると発育不可)」

のことです。つまり通性嫌気性菌(O2があってもなくても発育可能)ではないのですね。覚えるべき嫌気性菌は以下の菌たちです。

  • Bacteroides fragilis: 口腔内、腸管内、女性器の常在菌 , 腸内細菌のほとんどを占める
  • Fusobacterium necrophorum:口腔内、腸管内、女性器の常在菌
  • Prevotella sp: 口腔内、腸管内、女性器の常在菌
  • Clostridium sp(difficille以外)
  • Peptostreptococcus sp:上気道、咽頭、腸管内、膣の常在菌

の5匹の菌達です。よく、横隔膜より上か下かで分けることも多いかと思います。研修医のころなどはそれでも良いのですが、専攻医以上であれば具体的な菌名で考えましょう!さて以下には、代表的な嫌気性菌と抗菌薬の感受性の表を載せます。

こう見ると、嫌気性GNRである左3つの細菌の感受性が覚えておいたほうが良さそうですね。なぜなら嫌気性GPRとGPCであるClostridiumとPeptostreptococcusは嫌気性菌カバーのある抗菌薬でおおよそ効果あり、だからです。

そして、嫌気性GNRに対する主役、つまり悟空的立ち位置は、メトロニダゾールです。ベジータ的立ち位置が、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンでしょう!

米国では、Bacteroidesカバーのためにクリンダマイシンや、モキシフロキサシン、セフメタゾールの使用を推奨しない、とされています。これは耐性菌の問題のようです。日本ではセフメタゾールがかなり使用されているように思います。将来AMR(AntiMicrobials Resistance)の問題で使用できなくならなければよいですが。。。。

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嫌気性菌を考える感染症

ここまでで嫌気性菌の具体的菌名と抗菌薬の関係をわかっていただけましたか?でも、まだ不十分です!なぜなら嫌気性菌をカバーしなくてはならない感染症を知っておかないと、抗菌薬選択ができないからです。

例えば、尿路感染症でいきなり嫌気性菌をかばーしますか?・・・・・・・・・・・・

答えは「No!!」です。Yesとした読者の方、要注意ですよ。特別な状況(別記事で紹介します)でない限りは尿路感染症で嫌気性菌カバーは不要です。なので尿路感染症で嫌気性菌カバーができる抗菌薬はわざわざ選ぶ必要はないのです。

嫌気性菌カバーを考慮する感染症は以下の通りです。

  • 頭頚部感染症:特にLemierre`s症候群はFusobacteriumが原因としてNo1!
  • 腹腔内感染症[3]
  • 骨盤内感染症
  • 膿瘍
  • 壊死性筋膜炎やガス壊疽など複合菌感染症

これらの場合は、嫌気性菌カバーを考えます。要は複合菌感染症なんです。そう、好気性細菌が繁殖してO2を消費し嫌気環境になることで嫌気性菌も繁殖しやすいのです。

あれ?誤嚥性肺炎は?と思ったあなた、かしこい!実は誤嚥性肺炎や嚥下性肺炎と呼ばれる病態では、嫌気性菌カバーは不要とされています。これは最新のIDSAとATSが発表した肺炎ガイドラインでも明記されていますので参照ください[1]。一方で、肺膿瘍や肺化膿症では複合菌感染症が多いのでカバーは必須です。

PIPC/TAZ問題はどうするか

さて、以上を踏まえるとPIPC/TAZ不足問題はどうなるでしょうか。PIPC/TAZの使用すべき場面は、緑膿菌も嫌気性菌も同時にカバーできる点です。これの代替としては、

  • 重症であれば、カルバペネム
  • 緑膿菌カバー:セフェピム、セフタジジム、キノロン系+上記の嫌気性菌用抗菌薬
  • FNに関しては、他の推奨抗菌薬を使用

となるでしょう。おそらくどの病院もこういった対策にしていると思います。でも、実は普段から適正使用している施設は実はPIPC/TAZの使用頻度は高くありません。なのであまり困らないのです。

さあ、いかがでしたか?嫌気性菌に親しめましたか?好き?嫌い?どっちですか。私は実は嫌気性菌が好きです。Anaerobeという雑誌も定期的にチェックしています(笑)。皆さんも、これを機に「横隔膜を基準にして」ではなく、「菌名を具体的に思い浮かべて、それに活性のある抗菌薬はなんだろう」と考えて診療にあたってみてください。

Adios!

引用文献

  1. Am J Respir Crit Care Med. 2019 Oct 1;200(7):e45-e67.  ATS/IDSAガイドライン
  2. Clin Infect Dis. 2014 Sep 1;59(5):698-705.  嫌気性菌のAMRに関するレビュー
  3. Clin Infect Dis. 2010 Jan 15;50(2):133-64. 腹腔内感染症のIDSAガイドライン
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コメント

  1. […] さて、今回は久々に嫌気性菌を取り上げます。以前の記事で、基本的には尿路感染症では嫌気性菌は考慮しない、と書きました。いずれ理由は取り上げますと言いつつ、年月は過ぎ。。。。なので反省の意味も込めてまとめてみます!以前の尿路感染症や嫌気性菌の記事はこちら! […]

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