COVID-19~ステロイドについて後編~

COVID-19
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Ola!

さて皆様、前回からの続きでCOVID-19診療におけるステロイド治療の実際、ということを解説してきます。今回の記事はエビデンスというよりはエクスペリエンスを共有する形で書いていきますのでご了承ください!

前回のおさらい

前回はCOVID-19感染症でどんな人がステロイド治療の対象なのかから始まり、簡単にエビデンスを紹介しました。そして最後にステロイド治療を行う際に注意したい点や落とし穴の解説をしています。まだ読んでない!という方はこちらからどうぞ。

記事の一番最後に、「ステロイド治療を終了した後に増悪する場合」について、私の中での鑑別を挙げて終わりにしています。それを復習しましょう。

  1. 別の感染性、非感染性の原因がある。
  2. COVID-19肺炎が器質化肺炎となっている。
  3. 相対的副腎不全:特にICUなどの集中治療ユニットの患者

でしたね。今日はこれを一つ一つ解説します。

1. 別の感染性、非感染性の原因がある。

これは最も注意したい落とし穴です。デキサメタゾンをはじめとするステロイド剤(糖質コルチコイド作用を持つ副腎皮質ステロイドのことをステロイドと略します)はすべからく熱を下げます。これは炎症に関与する様々なサイトカインを抑制するからで、ステロイド投与中はどんな原因であっても熱が下がってしまうのです。

よってその間に、COVID-19ではない発熱性の疾患が併発していて、それらによる熱がマスクされている可能性は大いにあります。例えば、尿路感染症、誤嚥性肺炎などの感染性疾患(主に細菌性、ICUであれば真菌も)が併発していた、DVT/PEなどの血栓性疾患や結晶誘発性関節炎、無石性胆嚢炎など非感染性の疾患が併発した、などです。

あとはそもそも入院時の発熱がCOVID-19ではなかった可能性も常に考えないといけません。検査が陽性になった時点で思考停止する医療者を多く見かけます。皆さん、診断時から細心の注意を払ってください。PCRが陽性となったけど細菌性肺炎だった、誤嚥性肺炎だったなどは良くある話です(冗談ではなく)。

PCR陽性だけど非典型的な症状はないですか?

血液検査の項目すべてに目を通しましたか?

CT検査をしたなら、その肺炎像はCOVID-19に典型的ですか?

CTで撮影した肺野以外の部分に異常はないですか?

などの事項を入院時に必ず評価しましょう!

よってステロイド投与終了して発熱した、呼吸状態が悪くなったなどの場合には培養検査を含めたFever work upを行いましょう!

COVID-19肺炎が器質化肺炎となっている。

これは呼吸器内科の先生方がとてもお詳しいので解説は譲りたいですが(笑)。

器質化というのは簡単に言うと、線維化を伴った炎症が起こっている、ということです。

誰でもこけてケガをするとカサブタができて治っていきますよね。そして大きなけがであればあるほど、ひきつれや拘縮を起こす。これは生体の正常な創傷治癒の副作用なのですが、それが肺に起こると器質化肺炎と言ったりします。

少し脱線しますが詳しい方なら「特発性器質化肺炎: COP, BOOP」を知っているかと思いますが、こちらは「特発性=原因不明」であることが前提なのでCOVID-19後の器質化とは厳密には違います。むしろ入院時・診断時に非常に問題となってくる鑑別疾患です。というのも、COPとCOVID-19の肺炎像はひじょーーに似ているのです。一応、そんな鑑別もあるんだということを知っておいてください。ただ現代ではCOVID-19の有病率の方が圧倒的に高いですが。。。。

器質化してしまっているCOVID-19でステロイドを中止すると、「発熱、呼吸状態の増悪、CRP再上昇、LDH, KL-6などの肺傷害マーカーの再上昇」が数日中に起こります。疑った場合には、

  • CTの再検査
  • ステロイドの再開(可能なら呼吸器内科にコンサルトして)

を検討します。デキサメタゾンとして再開するかは微妙です。自身の経験では、器質化した肺の方がステロイドの減量を繊細かつ慎重に行う必要があるためメチルプレドニゾロンやプレドニゾロンで再開することがほとんどです。

相対的副腎不全

最後の鑑別はこちら。臨床において永遠に解決できないテーマかもしれません。私は相対的副腎不全はある、と信じています。速やかにステロイド補充を行うことでよい経過をたどることを何回も経験したからです。

また忘れたころに出くわす病態のNo.1といってもいいかもしれません。

まず復習です。コルチゾールというのはストレスホルモンと呼ばれているように、体に侵襲(身体的でも精神的でも)が加わった際に分泌が増えます。これはある意味でヒトが備えている自己防衛の方法の一つです。またサーカディアンリズムに深くかかわっており、起床して活動が始まるであろう朝に向けて分泌が増え、休息期間である夕方から夜間にかけて分泌が減少します。

通常は上記のグラフのようにストレス度合いに合わせてコルチゾールが見合うだけ分泌されます。

わかりやすさを優先してコルチゾールは0としています。実際には完全に0となることは稀です

2枚目は様々な原因で絶対的副腎不全(いわゆる副腎不全です)の人です。Addison病や副腎結核などの原発性、長期間のステロイド投与による2次性などの原因で副腎皮質からのコルチゾール分泌ができなくなった状態では常に薬物での補充が必要になります。侵襲の強さによって補充量を変更する必要も出てきます(いわゆるストレスドーズというやつです)。

こちらが相対的副腎不全の概念です(私見)。患者自身がある程度コルチゾールを分泌しているのですが、侵襲の程度が強すぎて追いついていない状態です。この足りない部分が、どのくらい足りないのかというのが評価しづらいので難しいのです。実際にコルチゾールやACTHを測定しても基準範囲内に収まっていることも多いです。「なんだコルチゾール出てんじゃん!よかった!」ではなく、臨床症状などから相対的副腎不全が疑わしければ、ステロイド補充をするべきです。

足りない部分の量が症例によって様々なのでかつ客観的指標で測れないので、臨床像は非常に多彩です。以下に副腎不全を疑う症状や所見を挙げますので参考にしてください。

UpToDate® Clinical manifestations of adrenal insufficiency in adultsより

上記の所見はすべて参考になりますが、特に参考になるのは

  • 倦怠感
  • 食欲不振
  • 消化器症状:特に嘔気嘔吐
  • 電解質異常:カリウムには要注意!グルコース・インスリン療法に反応しない高K血症に出会ったら副腎不全ではないか考えましょう!

などです。そして極めつけのTipsは、

副腎不全で症状や所見が生じているならば、ステロイド補充で速やかに改善する!

ということです。逆にあまり改善に乏しいのなら、原因は別にありますので鑑別しなおしましょう!これは一度経験すると劇的です。昨日まであんなに辛そうで、ご飯も食べれらなかった患者が翌朝には絶好調になります。この効果の切れ味はたまりません。

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おわりに

現時点で、ステロイドはCOVID-19肺炎に対する切り札の一つです。恐らく多くのCOVID-19診療病院が使用していることと思いますが、Pitfalも多くありますので、皆様の臨床に少しでもお力に慣れれば幸いです。

*上記はあくまで私見です。しがない臨床医のつぶやきと思って読まれてください。

Adios!

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