Ola!さて前回記事で表明したようにCOVID-19関連のことを書いていきましょう。最初は、おそらくもっとも悩ましいステロイドに関する内容です。皆さん悩まれていると思いますので、最初にエビデンスを復習してその後に私自身の実感とやっていることを書いていきます。
Evidence
最初は復習と整理です。一口にCOVID-19にステロイドといってもどんな患者さんが対象で、どのように使うのか、それが非常に問題になります。
少し脱線しますが、治療を選択する、さらに言うとEvidence-Basedで治療を行うためには以下の点を明確にしないといけません。
- Patient:目の前の患者はAという治療の対象として適切か?
- Effect:目の前の患者はAという治療を受けてどんな利益(臨床的効果)があるか?
- Adverse effect:目の前の患者はAという治療を受けてどんな不利益(副作用)があるか?
- Dose:適切な用法用量はどのくらいか?
以上の点を、COVID-19に関わらず常に考えましょう。
COVID-19に対するステロイド治療に関する、上記の質問に対する答えは下記のようになります。
Patient:酸素療法の必要があるCOVID-19患者
Effect:死亡率の低下、人工呼吸器管理率の低下、ICU滞在日数短縮
Adverse effect:高血糖、易感染性(ただしどのような種類の感染症がどのくらい増えるかという明確なデータはなし)
Dose:デキサメタゾン 6mg/day 10日間(または退院日までのより短い日数)
[1, 2, 3]
以上が簡単な要約になります。これらは複数のランダム化比較試験とそれをまとめたメタ解析/Systematic review[1, 2, 3]で明らかにされた事実です。
文献3でとても分かりやすくVisualに訴えるFigureがあったので共有しますね。緑色で塗られている部分がよい効果がある部分です。
臨床現場での迷いと実際
さて死亡率を低下させてくれるとわかった、デキサメタゾン(以下、Dex略)。これは投与しないわけにはいかないですね。ただし現場では色んな迷いが生じています。ここでそれらの迷いを整理して解決法の1例を提示します。
高血糖
糖尿病のある患者さんは重症化のリスクが高いとされます[4, 5, 6]。その方々にデキサメタゾンを投与すると当然のように血糖コントロールは悪化します。よって病院ごとに糖尿病科の先生がたと連携を取りながらや、インスリンスライディングスケールを駆使しながら対応されていると思います。
ただしあまり恐れすぎる必要はありません。なぜならDexの使用は一時的なものだからです。しっかりと血糖測定+スライディングスケールなどで著しい高血糖への予防策を打っていれば問題ないと思います。
注意は、ステロイドの高血糖に気を取られすぎて、空腹時の低血糖を招く可能性があることです。ステロイドは食後高血糖を招きます。昼・夕・就寝前の血糖はいずれも上がります。ただし、朝食前血糖つまり空腹時血糖は上がらないのです。これに関しては専門医の先生方にとっては当たり前すぎる事実ですが、非専門医や若手医師は知らないことが多いので、注意喚起させていただきます。
ステロイド性高血糖は空腹時低血糖に注意!!就寝前の血糖を下げすぎるな!
というメッセージを残しておきます。これに関してはいつか別記事を作りますね!
漸減するかどうか問題
私が臨床をやっていて一番困るのはこれです!漸減するのか問題です。
初学者や一般の方向けに説明すると、Dexをはじめとする医療で使用されるほとんどのステロイドは糖質コルチコイド作用を持つステロイド骨格を持った物質のことを言います。これがスポーツ界で乱用されるアナボリックステロイドとは違う点です。
わざわざ薬を使わずとも、ヒトは自分自身でこの物質を作り出して分泌しています。コルチゾールというのが、それで副腎という腎臓の上に帽子のように乗っかっている組織から分泌されています。これは別名ストレスホルモンといって、いろんなストレス(身体的にも精神的にも)がかかった場合に、分泌されるます。
このコルチゾールという物質は、脳の下垂体という部分から分泌されているACTHというホルモンによって分泌が促進されます。またこのACTHはさらに上流のCRHというホルモンによって分泌が促進されます。流れとしては、
CRH→ACTH→コルチゾール
という流れです。ここで、薬としてステロイドを投与するとどうなるでしょうか。体はコルチゾールのようなステロイドが体外から補充されてしまうもんだから、自分自身がコルチゾールをたくさん分泌してしまっているものだと勘違いして、
CRH↓→ACTH↓→コルチゾール↓
という状況になるのです。この状態でもし体外からのステロイド投与が中止されるとどうなるでしょうか。ステロイド不足となってしまうのは想像に難くないですね。この状況のことを、
副腎不全(絶対的または相対的)
と言います。この状態に陥ると、高熱や血圧低下、ミネラル異常、低血糖、意識障害などなど様々な症状が起こります。なのでCRHやACTHが抑制されるくらいのステロイドを使った場合には、突然中止するのではなく、ゆっくりと量を減らしていく(漸減する、といいます)ことが慣習的に行われます。
前置きはさておき、COVID-19診療で困るPointは以下のようなPointになるかと思います。
Q. Dex6mg/dayをスパッと中止して副腎不全にならないのか?
A. 多くの患者さんが漸減せずに中止して問題ない。
一般的にステロイドを漸減するべき患者、つまり体外からのステロイド投与によって視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA系)が抑制されてしまうのは以下のような状況です。
- PSL換算:20mg/day以上を3週間以上使用している患者(総量として420㎎/3wk)
- Cushing徴候が出ている患者
以上の条件を踏まえると、Dex 6mg/day(PSL換算すると約45㎎弱)を7-10日間投与しても総量:315-450㎎/1wkとなり、副腎不全のリスクとなりそうです。ただ総量よりも期間が大切と考える臨床医が多く、総量として同じでも期間が短いなら問題ないだろうという考え方もあります。
期間が大事という説を支持する根拠としては、ステロイドパルス療法があります。これは例えばmPSL 1000mg/day 3日間連続投与、というような普段から考えるととんでもない量を使う治療法ですが3日間でスパッと終了しても副腎不全となることは経験しないです。ステロイドパルスに関しては別記事も参照くださいね!
以上からはCOVID-19に対するDex治療で副腎不全になる可能性は低いと考えています。
Q. でもDex中止して発熱したり、バイタルサインが不安定になるICUの患者さんとかいるんだけど!どうしてくれるんだ!
A. 副腎不全以外の原因を検討すべき。
はい、私はどうもしません(笑)。これはDex中止後の増悪が何が原因なのかを考える必要があります。Dex終了後の増悪は私見ですが以下のような原因に大別されます。
別の感染性、非感染性の原因がある。
COVID-19肺炎が器質化肺炎となっている。
相対的副腎不全:特にICUなどの集中治療ユニットの患者
の3つだろうと考えています。一つ一つ見ていきましょう、、、、と言いたいところですが長くなりましたので後編に続く。
Adios!
引用文献
- RECOVERY Collaborative Group. N Engl J Med. 2020 Jul 17. PMID: 32678530
- REACT Working Group. JAMA. 2020 Oct 6;324(13):1330-1341. PMID: 32876694.
- Siemieniuk RA, et al. BMJ. 2020 Jul 30;370:m2980. PMID: 32732190.
- Petrilli CM, et al. BMJ. 2020 May 22;369. PMID: 32444366.
- Zhou F, et al. Lancet. 2020 Mar 28;395(10229):1054-1062. PMID: 32171076.
- Williamson EJ, et al. Nature. 2020 Aug;584(7821):430-436. PMID: 32640463.
コメント
[…] 前回はCOVID-19感染症でどんな人がステロイド治療の対象なのかから始まり、簡単にエビデンスを紹介しました。そして最後にステロイド治療を行う際に注意したい点や落とし穴の解説をしています。まだ読んでない!という方はこちらからどうぞ。 […]