みなさんこんにちは!Dr.マクロです。今回から抗菌薬マスターシリーズを開始します!抗菌薬は内科のみならず全医師が使いこなせるべき薬剤ですので、そのエッセンスを伝えられたらなと思います!映えある第1回目は、抗菌薬の王様であるペニシリン系です。ペニシリン系とセフェム系抗菌薬が使いこなせれば、抗菌薬の70%くらいは終わったと言っても過言ではないくらいに重要です。
でも、心配は要りません!できる限りシンプルにまとめますので安心してついてきてくださいね。個人的には歴史が好きなので、抗菌薬の開発の歴史からポイントを掴んでいきましょう!
ペニシリン系の特徴
まずはペニシリン系共通の特徴を掴みましょう!これはリストがわかりやすいと思うので以下に重要なポイントをリスト化しますね!
- 組織移行性:良好 *但し前立腺、眼内、炎症のない髄膜の透過性は不良
- PK/PD:時間依存性(つまり標的組織で、最小発育阻止濃度:MICを超えている時間が大切、これをTme above MICといいます)
- 排泄経路:腎排泄→なので投与前はCockcroft-Gaultの式による用量調節を忘れずに!詳細な用量はSanford GuideやJohns-Hopkins ABX Guideを参照
以上が共通の特徴でかつ、重要な点です!特に腎機能による調節は忘れないようにしてください。患者様に余計な有害事象を起こしかねません!
ちなみに、後述するβラクタマーゼ阻害薬は中枢神経に全く移行しないので、髄膜炎に使用することはありませんよ。
ペニシリン
最初に登場するのは、ペニシリン系の中でもKingであるペニシリンです。1928年にアレクサンダー・フレミングが実験室で偶然に発見した話はあまりにも有名です。実は、フレミングはリゾチームという免疫細胞が細菌を殺傷するために使用している物質も発見しています。後にペニシリンを精製したハワード・フローリーとエルンスト・ボリス・チェーンとともにノーベル医学生理学賞を授与されています。フレミングの研究意欲は、第1次世界大戦で、負傷兵がガス壊疽で次々となくなっていく姿を見た影響が大きかったようですね。ある意味では、戦争を契機に研究が進んだといってもいいのかもしれませんが、なんとも皮肉な話だなと思います。
さて、歴史はこれくらいにして、ペニシリンは日本でも未だに現役で、注射薬ペニシリンGとしてその活躍の場を残しています。感受性のあるGPC、Streptococcus(Staphylococcusはほとんどペニシリン耐性を獲得しています)は良い適応で、肺炎球菌肺炎や髄膜炎などでは使用する場面があるでしょう。また神経梅毒も投与を考えます。
非常にファジーな表現で、誤解を恐れずにいうと非常に「キレが良い」印象があります。効果のある菌にきちんと届かせると、スパッとよくなるんですね。
投与用量は単位が独特で、~万単位という単位です。これはおおよそペニシリン250mg=40万単位なので、1gだと160万単位となります。腎機能に問題なければ、200-400万単位を4時間毎の投与が基本です。これ以上は成書を参照ください。
製剤自体の注意点としては、K含有量が多く100万単位あたり1.7mEqのKが入っていますので、要注意です!
アミノペニシリン
さて、ペニシリンは素晴らしいですがここで開発の流れが2手に分かれます。1つはGNRにもより効かせたい!という流れです。その流れで開発されたのがアミノペニシリンで、具体的にはアンピシリンとアモキシシリンです。ちなみにアモキシシリンはアンピシリンのプロドラッグ、つまり内服でも初回通過効果を受けないように工夫されたアンピシリンなのでスペクトラムは一緒です。静注か内服かの違いのみです。
アミノペニシリンは上記のように、感受性のあるGNRにも効果があります。しかし、現代においては耐性も進んでおりあくまで感受性試験でSensitiveなGNRには使えるというイメージでいましょう。特に代表的な腸内細菌であるEsherichia coliやProteusは感受性がある場合があります。但し、Klebsiella sppはそもそもアンピシリン耐性ですので注意してください。感受性試験では常に耐性です。
一方、GPCへの効果は十分です。特にEnterococcus faeclisとListeria sppにはむしろ第1選択ですので、この2つの菌種を覚えましょう!
抗MSSA用ペニシリン
さて、アミノペニシリンとは逆にペニシリンをさらにGPCに使いやすくしようという開発の流れがあります。「え?ペニシリンでもGPCならば十分に効くんじゃない?」という読者もいらっしゃると思いますが、実はペニシリンはStaphylococcus aureus(以下、MSSA:Methicillin sensitive staphylococcus aureus)に早々に耐性を取られてしまっているので使用できません。しかし臨床上、MSSAを倒せないと困ってしまいます。MSSAの耐性機序は分解酵素の獲得、つまりペニシリナーゼを出すことなのです。なのでそれに分解されないペニシリンが、この分類の抗菌薬です。ナフシリン、オキサシリン、クロキサシリンなどがそれに当たります。世界では未だにMSSAに対する1st choiceなのですが残念ながら日本では販売されていません。
唯一、クロキサシリンだけはビクシリンSという商品名で、販売されています。でも、この製剤はアンピシリンとクロキサシリンの合剤なんですよね。ダブルペニシリン、ダブルβラクタムとなり有害事象は多いです。
緑膿菌に効くペニシリン
さて、ここでやっと緑膿菌の名前が出てきました。みなさんも抗菌薬の議論で緑膿菌の名前を聞いたことはあるんじゃないでしょうか。抗菌薬を考える上で、緑膿菌に効くかどうかは必ず意識してください。緑膿菌は激烈な敗血症を引き起こし、耐性機序も豊富に持ち合わせる恐ろしい敵なのです。
そんな緑膿菌に効かせるために開発されたのが、ピペラシリンです。今でも小児科では使用されていますが、成人ではほとんど使用する場面はないでしょう。というのも保険適応の量が、世界標準の量よりも遥かに少ないのです。例えば、SanfordではUsual doseが3-4gを4-6時間毎となっています。しかし日本の添付文書では1日量が2-4gとなっており不足するんですね。そんな背景もありあまり使用する場面ないです。ただ開発の経緯としては重要な薬ですのでマークしておきましょう。
βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン
さて、ここまで複数の抗菌薬を紹介しました。これらのペニシリン系抗菌薬は使い所を間違わなければ非常に強い武器となります。しかし、敵である細菌も指くわえて待ってはくれません。細菌はβラクタマーゼという恐ろしい武器で耐性を獲得します。簡単に言うと、ペニシリン系のもつβラクタム環という構造を分解して耐性を持つんです。代表的なのは先ほども出たMSSA、他に偏性嫌気性菌(Bacteroides sppが代表的)、多くのGNRも出しうるのです。
これを逆手に取ると、βラクタマーゼを克服すると、多くの細菌に対する武器を手に入れられることになります。そして作られたのがβラクタマーゼ阻害薬を配合したペニシリンです。
- アンピシリン/スルバクタム
- アモキシシリン/クラブラン酸
- ピペラシリン/タゾバクタム
の3種類です。青付文字がβラクタマーゼ阻害薬です。これにより、偏性嫌気性菌やMSSAにも効果を持つようになりました。βラクタマーゼ阻害薬自体には抗菌活性はない(例外あり)ので、特徴はもとの抗菌薬を引き継ぎます。つまり、ピペラシリン/タゾバクタムは緑膿菌には効くが、アンピシリン/スルバクタムは効かないのです。そしてアンピシリン/スルバクタムの内服がアモキシシリン/クラブラン酸です。
こうして、現在日本で使用されているペニシリン系抗菌薬の概要を説明し終わりました。こうやって見ると、ピペラシリン/タゾバクタムってとんでもなく広域な抗菌薬なんです。故に乱用されがちで、何でもゾシン、タゾピペ!(それぞれピペラシリン/タゾバクタムの商品名)となってしまいますが、敗血症や発熱性好中球減少症などを除いてピペラシリン/タゾバクタムである必要性がある場面って殆どありません。せっかくの広域抗菌薬なので、ここぞっていうときに使用するように心がけましょう。そして、細菌が特定できたら最適治療にde-escalationする快感も味わってみてください。Dr.マクロはde-eacalationでご飯5杯はいけます。Adios!
コメント
[…] の2つの菌種には全て無効です。4世代のセフェピムでさえも無効です!ではそれぞれに効果のある抗菌薬は何でしょう?第1回目の記事を思い出してください。。。。。。。。。そう!アンピシリンでしたね(腸球菌の中ではEnterococcus faecalisのみ)!1回目の記事も復習しておきましょうね! https://trkpresc.com/%e6%8a%97%e8%8f%8c%e8%96%ac%e3%83%9e%e3%82%b9%e3%82%bf%e3%83%bc%e3%82%b7%e3%83%… […]
[…] 基本的にペニシリン感受性ですので、菌が判明し感受性試験が分かればペニシリンGやアンピシリンで治療します。経験的治療としては、細菌性髄膜炎としてセフトリアキソンでカバー可能ですので、N.menigitidisを考慮したから特別な抗菌薬が必要なわけではありません。 […]
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